●サイドスキャンソナー使用雑感について「漁場開発部:桑本」
ここではサイドスキャンソナー(米国KLEIN社製System3000)の使用を通じての雑感を少しダラダラと綴らせて頂きます。データ集のコーナーに、サンプル画像を掲載していますので、そこも是非ご覧下さい。また、基本的な仕組み、有効活用例についても補足説明しておきたいと思います。
1.基本的な仕組み
サイドスキャンソナーは、進行方向と直交方向に超音波を扇状に発振させ、海底面からの後方散乱波を受信する仕組みになっています。
System3000では発振周波数が2つ(100KHz、500KHz)あり、同時に送受信されます。周波数が大きい方がより緻密なデータが得られますが、反面探査できる幅が狭くなります。また、探査幅は片側最大450m(両側で900m幅)と、かなり広域をカバーする能力があります。但し、沿岸域の浅場などで詳細な情報を得たい場合は50m以下に設定する必要があり、ベストな条件下では直径数センチの礫まで確認可能となります。また、曳航体の耐圧水深は1,500mとなっており、大水深での探査も理論的には可能ですが、使用する曳航ケーブルの長さとの関係もあり、通常の最大水深は200m程度までとなっています。要するに、潜水や水中ロボットに比べ格段に広範囲の海底探査が可能であり、上手く使用すればかなり精度の高い画像が得られるということです。
・膨大なデータ容量
サイドスキャンソナーのデータ容量は膨大です。丸一日探査すると生データだけで2GB(2,000MB)をオーバーします。長崎支所では、最終的にGISソフトに取り込んでデータベース化を行っており、その間に必要なファイル変換のための処理回数は3〜4回になりますから、1日分のデータ量は7GB前後に及びます。お陰でハードティスクはいつも悲鳴を上げ、増設を繰り返してします。現場が数日に及ぶ際には2GBのUSBメモリーを持参したこともありましたが、これでも充分ではなく、現在は40GBのポータブル型ハードディスクを使用しています。
・難解な解析作業
解析作業では、複数のソフトウェアーを使用することになります。個別のマニュアルはありますが、サイドスキャンソナーの画像解析に関しては、マニュアルでは説明できない、いわゆる職人技的な領域が幾つかあります。トライ&エラーで体得するしかありません。それと、各機関が所有しているソフトウェアーの違いから出力方式も多少異なります。従って、完結したマニュアルはなく、敢えて言うならソフトウェアー構成に合わせた解析手順を、自前で少しずつ文書化していくしかありません。最終的な印刷を例に取っても、モザイク処理後(画像処理後)の「伸しコンブ」の様な画像は、解像度を72dpiとした場合、横長数m(数kmの探査の場合)となりますから、できれば大判プリンターも欲しいところです。そこで、新たに特殊印刷に関する知識も必要となってきます。
・まとめ
最後にサイドスキャンソナー使用に係る雑感をまとめると、「機器性能は素晴らしく、デジタル時代に相応しい決定的な手法の一つだと思いますが、それを上手くハンドリングするためには現場、解析を通じて様々な経験性が必要であり、そうした過程はむしろアナログ的な世界」のようです。
(次回に続く)
2.有効活用例
魚礁関係では、数十年前に投入され位置不明な魚礁の特定、単体の型式判別、詳細配置、埋没、網掛り、設置予定域の底質確認など、増殖場関係では投石やブロック個々の配置、藻場関係では岩礁帯と砂地の詳細分布、藻場分布、養殖場・定置網漁場関係では生簀網、ロープ・アンカーなどの敷設状況、その他には沈没船、海洋ゴミ、落下物、投棄物の探査などに威力を発揮します。上記のとおり、ベストな条件下では直径数センチの物体の識別も可能であることに加え、反射強度が色の濃淡として捉えられることから底質の砂と泥、物体では金属と木製などの判別も可能です。この識別能力こそがサイドスキャンソナーの最も優れた点であり、当方が最も着目しているポイントです。
3.使用を通じての雑感
現場作業から解析、報告書作成まで行っていますが、実はいつも思わぬ難題に直面し頭を痛めています。それは同機の性能を最大限に引き出すための、避けては通れない関所みたいなものです。いくつかを簡単に列記します。
・作業船の大切さ
サイドスキャンソナーそのものは軽量ではありますが、それを稼働させるための制御装置、ケーブル、発電機、ノートパソコン、モニター、DGPS、誘導システムなど周辺機器は多く、それらの接続は結構面倒です。特に、海水を被ると即ダウンする機器も多く、作業船でのポジショニングには神経を使います。使用経験のある作業船であればいいのですが、初めての作業船の場合、即断即決でとにかくセッティングし、探査しながら修正を加えることになります。それに、当センターでは独自の誘導システムを別に用意し作業船を誘導していますが、測量作業に不慣れな船長さんの場合、航跡が大きく振れるので、後の解析作業でたいへん苦労することになります。後部デッキが広く、自動操舵が装備され、腕の良い船長さんであれば最高なのですが!
・厳しい気象条件
曳航体は海中に沈めますから、作業員が船酔いに強いなら少々のシケでも探査可能であるのかと思われるでしょうが、そうはいきません。雨天の場合は精密機器がダメージを受けますから小降りでもアウトです。波高に関しては、天気予報ベースの波高2.0mまでが許容限界で、2.5m以上の条件下では曳航体の上下運動によるデータ障害がみられます。特にピッチングに弱いようです。また、強風の場合は作業船が真っ直ぐ進めないのでアウトです。それに潮の流れの影響も深刻です。曳航体には翼が付いていますが、迎え潮の場合は、曳航体が浮き上がりなかなか沈まないことがあります。横向きの潮では、曳航体が斜めにずれ位置精度が低下します。できれば小潮期の凪の日で潮止まりの時間帯に調査ができればいいのですが、そうした余裕ある日程が組めないのが常です。昨年度3月に対馬周辺沖で魚礁探査を行いましたが、9日間の滞在で、まともに調査できたのは3日程でした。対象域の海域条件に精通した経験性が強く求めらることはもとより、難所の作業では幸運の女神が微笑むことを祈るばかりです!
・現場状況観察の大切さ
対馬の現場では、天候以外に思わぬ事態に見舞われました。音波が海底まで届かず、ブラックホールのような記録が頻繁に出現しました。解析の段階でボトムトラッキングという補正法を用い何とか処理しましたが、いったんは計器の故障かと困り果てました。ちなみに、この時には作業船のカラー魚探も同時に確認していましたが、魚の反応はほとんどありませんでした。後日、記録データを何度も再生しなから確認しましたが、やはり原因を特定できず苦悩していたところ、ふと現場での異変を思い出しました。海面にアミ類のパッチ(直径10〜20m程度)が数多く観察されたことです。そう言えば同じ日に高速艇とクジラの衝突事故が起き話題になり、もしかしてこのアミ類を追いかけて鯨が集まっているのかな?と雑談していたなと。そして、アミ類はカラー魚探には映らないとも漁師さんが言っておられたなと。この事を現場補足情報として、メーカー担当者(応用地質株式会社,海洋特機グループリーダー 三井様)に相談したところ、これは計器の故障ではなく、何らかの生物による影響であるとの回答が得られました。その際に添付されてきた解析図を図-2に示しますが、「赤丸の箇所は魚礁付近の魚からの反射(又は散乱)を受けた部分、青丸の箇所はボトムトラッキングが正常な部分です。赤丸の箇所は、魚、アミなどがえい航体の近くにいる場合であり、白っぽい“く”の字の帯は全て何かの生物ではないかと思います。」と付記されていました。カラー魚探には魚影はほとんど映っていないことを確認していたので、これらはすべて濃密なアミ類のパッチの影響であると確信しました。クジラの衝突事故とアミ類のパッチの関連性についての論議は別にしても、現場での状況観察の大切さを再認識し、サイドスキャンソナーでアミ類のパッチが補足されるという事実を知っただけでも貴重な経験だったのかなと思ったところです。