採取してきたホンダワラ類
(右:マメタワラ、左:ヤツマタモク)
水路のコンクリート面に着生したホンダワラ類

●最近のちょっと嬉しい発見!「漁場開発部」
 長崎港内、特に大小の造船所が立ち並ぶ女神の鼻から湾奥にかけては、以前から家庭排水、工場排水の流れ込みで富栄養化が進み、このため、春先から植物プランクトンよる赤潮の発生で、海の色は醤油色に変わり、これが秋口までは続く、というパターンが毎年繰り返されていました。そのような環境だったのでまともな大型海藻といえば、以前は一時的に岸壁などにワカメが繁茂することがありましたが、最近はそれさえ見ることはできませんでした。
 そんな長崎港内ですが、最近昼休みの散歩中に、出島ワーフから水辺の森公園に続く水路の入り口付近のコンクリート部にホンダワラ類が30株ほど生育していたのをみつけました。長さは20cm〜80cmくらい、ぱっと見た目には2〜3種類くらいありそうです。


 一般には、ホンダワラ類といわれているものは、ツタ状の茎から枝分かれして、その枝の周りに葉と気泡をつけた海藻を総称して言っていますが、その種類は国内でも数十種類あります。長崎県周辺では、ノコギリモク、ヤツマタモク、ヨレモク、アカモク、マメタワラなどが普通に見られる種類でしたが、最近は温暖化による海水温の上昇を影響を受けて、暖海性のホンダワラ類に変遷しているようです。
 そこで、どんな種類かを確かめるべく、若手職員を引き連れて干潮時にそ
の海藻を採取しに行ってきました。ワイシャツ、ネクタイ姿に長靴を履いて
水路の中に降りた彼を、修学旅行の学生や工事のおじさんたちが『こんひと、
なんばしよっとやろか?』という目でみています。そんな周りの目にも負け
ずに、さらには手のひらを何箇所もカキの殻で切って血を流しながらも、彼
はなんとか2種類の海藻を採取してきました。このほかにも、形状からみて
異なる種類がもう1種類はあったのですが、さすがに腰まで浸かって取って
きて、とはいえませんでした。
 採取してきた海藻は、茎、葉、気泡の形状等から、マメタワラとヤツマタ
モクであることが分かりました。水路横の道路の上から見た感じでは、マメ
タワラ5割、ヤツマタモク3割、不明種2割くらいの割合で、このほかに緑
藻のアオサ類とミルが干潮線付近のコンクリート面をびっしり覆っています。
 長崎県の周辺海域では、最近磯焼けによる海藻類(アラメ類やホンダワラ
類)の消失が問題となって久しく、関係機関が藻場回復の為に色々な手法を
試みたにもかかわらず、ほとんど改善の兆しがみられませんでした。そんな
状況下で、長崎港内、それも湾奥に位置する水路内での、この発見には正直
驚かされました。そういえば、今までは長崎港は汚染されている、みたいな
ことばかり書いてきましたが、最近はその状況に少し変化がおきているような気がします。この文章を書いているのは6月の初旬ですが、事務所の窓から見える長崎港の海の色は普通に青い色をしています。確かにここ数年は港内での赤潮の発生回数が減っており、たまに発生しても短期間で消失しているようです。次に港内で釣りをする人が以前に比べて増えており、釣れる魚の種類も増えているようです。アジは時期により大小はあるようですが、ほぼ周年釣れており、たまにサバが混じることもあります。2月頃には釣れたアジをそのまま泳がせて、40cmくらいのヒラメが1日に何尾も釣れていました。また、4〜6月にかけては出島ワーフ付近で餌木を投げてモンゴウイカが釣れ、いつも早朝から4〜5人の釣師でにぎわっています。このほか、たまにクロダイやメジナ、ギンガメアジ、アカカマス、スズキ、アナゴ、キス、カサゴなどが釣れているのをみかけます。
 このように、港内の水質環境が改善されていることを、海藻の分布や釣れている魚の変化で感じる今日この頃です。これは、長年かけて整備された下水道や工場の排水規制等による所が大きいと思いますが、これ以外にも環境問題に対しての市民の意識の向上も大きな要因になっているのではないでしょうか。
 なにはともあれ、私たちが小さい時から身近に係わってきた長崎港が少しずつでも良い方向に変わっていくのが感じられるのは嬉しいものです。そして、今年着生したホンダワラ類が種を出し、来年も再び群落を大きくして出現し、海水の浄化に貢献してくれることを期待します。

 

水路の入り口付近