ハンディタイプのGPS
六分儀(今や骨董価値?)

●測位技術の進歩について「漁場開発部」
 長崎県の魚礁設置事業は昭和30年代前半から実施されており、すでに約50年が経過しています。この間、魚礁事業に関する海上位置測量技術の進歩は目覚ましいものがあります。
 昭和30〜50年初めにかけては、現在のような有効な海上位置測定機はなく、あっても大
型船にロランAやデッカが搭載されている程度で、魚礁設置事業の位置出しに使われるこ
とはまずありませんでした。このため、投入に際しては、予定域の場所を記入した海図を
持っていき、六分儀で陸上の顕著な物標の角度を測定し、三桿分度器を用いて位置を確認
していました。六分儀の細かいミラーをみて角度を測る作業は、時化の海上ではつらいも
のでした。また、投入した場所の記録としては、当時は手書きの山立て図(水産試験場資
料)が残っている程度で、現在のように緯度、経度で記録している訳ではありません。
 昭和50年代に入ると、ロランAよりも精度の高いロランCが普及し始め、小型化したこと
もあって一般の漁船も搭載するようになり、魚礁の位置出しに利用されるようになりまし
た。六分儀による測定では、気象条件により陸上の物標が見えないことも多々あり、陸地
が見えない様な沖合でも位置が確認できるロランCは当時は画期的な装備でした。また、
山立ても手書きから写真に変わり、記録としてもかなり見やすくなりました。ただ、従局
からの電波の欠射で使用できないことが多く、電波が取れるまで沖合で波に揺られて長時
間待つこともしばしばでした。また、精度についてもかなり問題有り(電波の状況によっ
ては数百m)でした。
 平成に入ると、今度はロランCに変わって衛星を利用したGPSシステムが開発されました。
GPSはロランCに比べると精度は格段に向上しており(湾岸戦争時は10m程度の誤差)、一
本釣など魚礁や天然礁を利用する漁業者にとっては、一度画面に登録しておけば、その後
は画面を見ながら簡単にポイントにもっていけることもあり、あっという間に県内の漁船
に広がりました。また、乾電池仕様のハンディタイプのGPSも市販されるようになり、高
い精度で位置の確認ができるようになりました。さらに、近年はDGPS※1やRTK・GPS※2も
普及してきており、沖合の海上でも前者は1m未満、後者は2〜3cmの精度での測定が可能と
なりました。
 昨年度、本センター長崎市支所が長崎県からの委託事業で、緯度、経度の記録がない昭
和から平成初期の県営魚礁の位置確認調査(魚礁台帳)を行いました。予想どおり、ロラ
ンCの位置記録で船をその場所にもっていってもなかなか見つからず、結局、手書きや写
真の山立をたよりに船を誘導し、なんとか確認できましたが、位置出しシステムが進化す
る中で、山立などの位置の記録の保存がいかに大事であるかを痛感しました。
 魚礁台帳については、今後2〜3年をかけて県営の魚礁をすべて網羅する計画となってい
ますが、市町村の並型魚礁についても、今後効率的な漁場利用と造成計画立案のために、
各地先内の魚礁台帳の作成が望まれる所と考えます。

※1 位置の分かっている基準局が発信する電波を利用して、誤差を修正して精度を高める技術で、精度は1m前後
※2 基準となる観測点(固定点)と求点となる観測点(移動点)に設置したGPS測量機で同時にGPS衛星からの 信号を受信し、位置精度を上げる測量手法で、精度は2〜3cm程度