また、海洋版GISを組み込んだノートパソコンを調査船に持ち込めば、魚礁設置位置、等深線、海底探査記録(サイドスキャン画像)などを表示させた状態でのナビゲーションも可能です。それがGPSと連動したリアルタイム位置誘導システムです。GPS装置は通常GPSとDGPSに大別されますが、DGPSは装置そのものが重装備となるので、現場の状況や要求される精度に応じてGPS装置を使い分けており、効率的で精度の高い位置管理が実現しています。また、航跡データはログファイルとして保存できるので、後日、事務所でシミュレーション再生を行うことができ、様々な検証・解析に利用しています。
使用例2 (16方位探査、再生画面)
使用例1 (魚礁探査、再生画面)

●海洋版GISによる魚礁台帳と位置誘導システム「漁場開発部:桑本」
 魚礁設置事業を促進する上で最も重要な課題の一つが、魚礁の位置情報を漁業者に対し、いかに正確に提供するかということです。漁業者は、正しい位置が判らなければ、魚礁を利用することができません。しかしながら残念なことに、過去に設置された魚礁情報を事業主体が正しく整理・保管されていないケースが多々見受けられます。今日ではGPSに代表される測位技術の発達により、数mの精度で設置位置が確認できますが、GPSが普及したのは十数年前からであり、それ以前に設置された魚礁の位置では、緯度経度が記録されておらず、また例え記録があったとしてもロランC換算値や海図からの読取り値であり、それらの位置情報は実際の位置と比べ経験的に数十〜数百mのズレがあることに留意しなければなりません。こうした問題点を解決するには、位置が不明瞭な魚礁についてはGPSを用いて位置を再確認することと、地先に設置されている魚礁の詳細情報が一目で判る「データベース(魚礁台帳)」を整備することです。
 長崎支所では、魚礁情報をデジタル情報として管理可能なデータベースを保有しています。その基本技術となるのが「海洋版GIS」(基本ソフト;MarineExplorer、発売元;(株)環境シミュレーション研究所)です。本データベースで管理・閲覧可能な情報は、等深線を含めた地形図、設置年月日、設置数量、緯度経度(日本測地系・世界測地系併記)、魚礁単体図、魚礁分布図などで、これらを記載した詳細情報を個表(Excelファイル)に整理し、地図上にプロットされた各魚礁マークのリンク情報(パソコン上で魚礁のマークをクリックすると表示される)とすることにより、任意の魚礁情報を表示できるよう操作性を高めています。
 デジタル版魚礁台帳では、データの追加と修正が容易で、任意の範囲の拡大・縮小、方位・距離計算、鳥瞰図(3D)表示、印刷なども可能ですから、様々な利用目的に応じた活用ができます。また現在、ROV、サイドスキャンソナーなどの記録データ(集魚状況のビデオ映像・構造物の詳細配置図・底質図)の追加に関する技術開発も進めており、こうした効果調査や精密地形調査などの成果を含めたデータベースを地先単位で構築すると、様々な事業計画・構想策定の際に役立つでしょう。行政、試験研究分野から漁業者サイドまで、幅広い利用に対応できるものと期待しているところです。
 本システムを利用した魚礁台帳の整備例としては、長崎県下の大型魚礁を対象とした魚礁台帳(県営事業)があります。これは長崎県下全域の県営大型魚礁のデータベースであり、現時点における記載箇所数は約340に及びます。長崎支所では、今後、人工礁、人工湧昇流漁場、増殖場、並型魚礁の情報も加えるなどデータベースを拡張し、関係者の利便性向上に応えたいと考えています。