●技術開発の取り組み状況について「漁場開発部:桑本」
 長崎支所には、技術開発専門の部署は特にありません。職員が日頃の業務を通じ様々な形で取り組んでいます。テーマは、些細なものから大掛かりなものまで、短期的なものから長期的なものまで、対象分野も雑多です。ややもすると「技術開発」という言葉には「革新的でなければならない」とか「大掛かりなスケールでなければならない」などのイメージがありますが、当方ではそう考えていません。今までなかったソフトやシステムを自前で考案・改良することを総じて技術開発と位置づけ、特に実用性を重視しています。例えば、煩雑な数値計算・解析作業を効率良く処理するためにExcelでマクロを組むことも立派な技術開発であり、それを足掛かりに斬新性を加え革新的な新技術が生まれることが多々あります。既成概念にとらわれない大胆な発想も必要ですが、最も大切なことは日常業務を通じての経験の中から、創意工夫の必要性を見い出し、それを解決するための努力を積み重ねるということです。具体例を挙げて簡単に説明したいと思います。

1.データベース
 魚礁位置(海洋版GIS)、海底状況(サイドスキャンソナー画像)、魚礁の集魚状況(ROVビデオ・写真)、魚礁姿図、地形図、藻場分布状況などのデータベース化に取り組んでいます。魚礁位置関係であれば海洋版GISによる魚礁台帳、効果映像であればDVDコンテンツ、地形図や分布図などはPDFファイルで一元的な管理を行っています。今後の目標は、これら各データベース間の連携とハンドリング向上を図ることですが、膨大な容量を伴うビデオ映像などのデータベース構築には現在のDVD方式などでも対応できない面があり、新しい記録媒体の普及を待望しているところです。

2.GPS・座標変換・測量関係
 測量関係の座標計算や位置誘導システムなどの操作性向上のための技術開発にも取り組んでいます。基本的には、まずGPS装置をパソコンと接続し、入力信号から緯度経度、時間など必要情報を抽出し、座標系・測地系変換を行うまでの基本的な仕組みと換算式を理解することから始まり、最終的にはより使い易い独自のプログラム作成を目指しています。すべての機能が一体となった測量システム一式が数多く販売されていますが、こうしたシステムではカスタマイズ面の自由度が低く、特殊業務には対応できない場合があります。長崎支所では海洋版GISを利用した位置誘導システムを構築していますが、これとは別にExcelのみで、こうした特殊業務にも効率的に対応できるツール作成を行っています。但し、市販のものに比べ機能的にはまだ成熟していない面があるので、日々改良に励んでいるところです。こうした技術開発で最も重要な点は、各ステップ毎の計算式をしっかり把握しておくことです。それが準備歩できていれば、それらの組み合わせにより様々な業務に対応できるプログラムが開発できます。Excelで作成した便利なツール(プログラム)の一部を紹介します。
 ・世界測地系と日本測地系の相互変換
 ・世界各地の測地系の相互変換
 ・緯度経度と平面直角座標の相互変換および距離・方位計算
 ・簡易測量用の位置誘導および座標計算
 ・出来高管理システム

3.CAD関係
 長崎支所ではCADソフト(VectorWorks)を利用して、様々な図面を作成しています。測量図面、計画図、魚礁の3Dモデリング画像などです。同ソフトは作業を効率化するためのプログラミング言語(Pascal由来のVectorScript)を装備しているので、測深記録からの魚礁分布図作成、屈折図作成などを自動化するための簡易的なプログラムを開発したいへん重宝しています。CADソフトで作成した図面は精度が高く、DXFファイルに変換すると、他のCADソフトとも互換性を保てる利便性があります。

4.シミュレーション関係
 シミュレーションには様々な分野がありますが、水産分野でよく目にするのが水質や潮流のシミュレーションです。シミュレーションでは膨大な回数の繰り返し計算が必要となるので、パソコンの負荷も大きいのですが、近年ではパソコン性能が向上しているので処理時間にこだわらなければ、たいていの処理は可能です。長崎支所でも、流動シミュレーション、拡散シミュレーションなどに必要なプログラムの自主開発を行っていますが、この種の業務は、長期間専念しないといけないので、必要に迫られた際に集中して携わっているのが実情で、正直、現在は一時休止に近い状態にあります。自然界でみられる物理現象を再現するには、どうしても偏微分方程式による時間発展的なステップ計算が必要となります。基本式を数学的に理解し、それをコンピュータ言語で表現し、地形をモデリングし、細かい境界条件やパラメーターを与えて、数百万数億回という繰り返し計算を行い、最後に計算結果を図化しなければなりません。流動シミュレーションでは、海底に設置した魚礁の周りや内部にどの様な流れが発生するかを予測するための「ポテンシャル流シミュレーション」を開発しています。プログラムはFortran言語で組み、水深、構造物の種類、スケールなどを変化させて、その流況を解析しています。また、拡散シミュレーションでは、特に濁りの拡散予測に傾注しています。数年前に海岸線工事に伴う濁りの拡散予測をしなければならない必要性に迫られたのがきっかけでプログラムを開発したものです。特にシルトフェンスを任意の場所に設置した際の拡散予測が可能な点が特徴です。このプログラムはすべてをExcelで作成しています。現段階ではまだ単層モデルですが、エクセルのマクロ機能を利用し、時間経過に伴う拡散状況をアニメーションの様に再現できます。

5.その他
 その他にも新規魚礁の開発、藻場造成手法のマニュアル化、人工魚礁における効果検証の方法論の検討、養殖漁場における環境改善機器の検証なども行っています。これらは委託事業あるいは委員会参画を通じ取り組んでいます。